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写真と文 石川文平

 

No.59「プリテック・ステージ」2000年2月号掲載

 

味覚音痴

■相変らずグルメブームが続いている。食べ物がテーマの番組はいまだに高視聴率のようだ。テレビや雑誌に紹介された店は、行列をつくるほどお客が増えるらしい。不況とは言え日本はまだまだゆとりがあるようだ。私もミーハーなので行列をつくっている店には入ってみたくなる。美味しいと聞けばわざわざ出かけたりもする。結果、残念ながら満足する確率は低い。■何を根拠に旨い店と紹介するのか、疑問が湧く程の店でも「美味しいね〜、やっぱりね〜」などという会話を聞くと、俺のは別のものが来たのかと、思わずその客の食べている中味を覗き込んだりするような事もある。私の味覚も自慢出来る程ではないが、マスコミの評価を鵜呑みに美味しいと言っている感覚も不思議である。マスコミ情報のいい加減さに抗議してか、「当店は絶対に雑誌等には掲載しません」と書いた紙を貼り出している店もある。そんな店もまた私のようなミーハーでごった返すのである。ミーハーな自分を棚にあげて言わせてもらえば、やはりいい店は自分の勘と足と舌で探すのが一番である。■味覚は味の比較を積み重ねることで培われるらしい。何かの本で読んだのだが、子供の頃からインスタントやレトルト物ばかり食べていると、味覚音痴になるらしい。子供の頃の味に対する会話が大事なのだそうだ。いつも安定した味は味覚に対する会話を生まないのである。手作りの料理は、母親の体調や材料の変化で味が微妙に変わる。家族の誰かが「今日の味噌汁はちょっと濃すぎるな」とか、「ちょっと味が薄かったかしら」などと会話することが大事なのだそうだ。こんな会話の中で、子供達は改めて味を意識し確認するのである。母親の作ったカレーよりも、レトルト食品のカレーが美味しいと感じる子供が増えているそうだが、ちょっと寂しい感じがする。 ■最近の印刷技術にも似た様な不安を抱く人が増えている。世界に誇る日本の印刷技術が、DTPの普及に比例してレベルダウンしているように感じるのは、私だけではないようだ。DTPでの製作にデザイナーがかかわる事で、簡易スキャナで分解したデータを混在したり、作業の手離れ等を優先する傾向がみられる。アナログ作業とDTPの違いは、手作り料理とレトルト食品の違いに似ているように思える。印刷会社にとって仕上がり品質へのこだわりが薄くなったことは、いわばうるさい仕事が減り楽になったわけである。ところが、この事は両刃の剣とも言え、印刷技術が低下していくことにもつながる。■DTPによって技術の平均化時代がやって来た。香港やインドネシアなどアジアの印刷技術が急激に向上している。日本の技術をハイレベルに維持するには、コンピュータには替われない部分、仕上がり品質の味覚音痴ならぬ視覚音痴を生まないようにする必要があるのではないだろうか。感覚も技術も、食事中の味の話題の様に、心の通った辛口の指摘が必要なようである。

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