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写真と文 石川文平

 

No.57「プリテック・ステージ」1999年12月号掲載

 

スカウトペース

■パン・パン・パーンと空砲の花火が秋空に響いて、横浜マラソンがスタートした。20kmのハーフマラソンと、10kmマラソン、今年から始まった車椅子マラソンの3種目である。高校生以上なら誰でも参加できるマラソンだが、パトカーが先導し給水所も設置される本格的市民マラソンである。6年ほど前から、私は知人に誘われてこのマラソンに参加している。勿論10kmマラソンである。■普段ジョギングなどもせず、散歩すらもすることの無い状況で毎年ぶっつけ本番の参加は、五十を越えた体には相当きつい。今年は前日深酒をしてしまい二日酔い状態であったため、欠場するつもりだった。こんな生活態度ではアスリートとは言えない。出場をためらっていると、「始めから棄権するなら途中でバスに乗ってみるのもいいんじゃない」と、毎年一緒に走っている妻が言う。一定時間を超える場合は最後尾を着いてくる救護バスに乗ることが出来る。このバスに乗ることはランナーにとっては恥辱といってもよい。なるほど、棄権するならあのバスに乗ってみるのも面白そうだとスタートの列に並んだ。そんな不遜な気持ちでの出場であったが、走り出せば、やはり完走したいと思い始めるから勝手である。■子供の頃ボーイスカウトに入っていた。その頃長距離を疲れることなく走れる方法を習った。スカウトペースといって、40歩走って40歩歩くを繰り返すのである。あくまでもマラソン競技なのだから、歩くなどとはとんでもないと思っている私であるが、今回は歩いてでも完走を目指すことに考えを変えることにした。そうしたら急に気持ちが楽になった。3km地点で走法を変更した。走っては歩くのスカウトペースである。すると、これが思ったよりも快適。しかも、歩いた分だけ走ることに力が入るから、あまり遅くならない。もっとも10kmを1時間以上かかって走るレベルだからではあるが。■この10kmマラソンにはいろいろな人達が参加している。体の不自由な人は伴走者と一緒に走る。学校の陸上部のメンバーや会社の仲間、外国人。高齢者では、私の知る限り74才の方が走っていた。なぜ年齢が判ったかと言うと、私がその人のすぐ後ろを走っていたからである。ゼッケンに年齢が記入されているのだ。その人は私よりもハイペースで、はるか前方に行ってしまった。次にペースが合った人とは、ぽつぽつ話しながらしばらく一緒に走った。72才の方で、10kmで1時間を切りたいと言っていた。私の走り方を見て、歩くと疲れますよと忠告してくれた。折り返し点を曲がると救護バスが見え、既に数人が乗っていた。運河をまたぐ橋を超えて、右に曲がるとゴールである。この辺がいつも一番苦しい。ところが、今回は違っていた。少し後ろを走っていた妻を待ってゴールする余裕まであった。 ■スカウトペースを更めて見直した。しかしその前に、走り続けなければという気負いを切り替えた事が大きかったように思う。気楽に走る。棄権していたら気付かない経験がそこにあった。変化の激しいこの社会でも、情報に遅れまい、景気に敏感でなければと、走り続ける事が必須条件のように感じてしまう。歩いたっていいじゃないか。経営にもそんな気楽な気持ちが必要なのかもしれない。1999年も残すところあと数日になった。西暦2000年はどんな年になるのだろうか。あまり気負わず自分のペースで進む年にしたいものである。

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