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写真と文 石川文平

 

No.51「プリテック・ステージ」1999年6月号掲載

 

ニッポニア・ニッポン

■Nipponia nippon(ニッポニア・ニッポン)トキの学名である。日本のトキの繁殖計画は雌のミドリの死によって断たれた。雄1羽では事実上の絶滅と言わざるをえない。現在日本のトキの立場は「野性種絶滅」と呼ばれている。たった1羽の雄のキンが「絶滅」という言葉の頭に但し書きを残しているのである。環境庁は、何とか血を保とうと中国から雌のファンファンを後添いに向かえた。生物学的には日本のトキも中国のトキも変わりは無いらしい。ならば日本で絶滅しても中国で守っていければいいんじゃないかという意見もあるのだが、そこのところにはこだわりがあるようだ。■何しろニッポニア・ニッポンなのである。この学名と文明国としての威信にかけて絶滅させる訳にはいかないのである。しかし、結果は残念ながら無精卵5個しかつくることが出来ず、ファンファンさんは国元に帰ってしまった。キン氏は推定32歳、子どもを作るには少し高齢すぎたようだ。日本のトキの血を繋ぐという夢は潰えて、とうとう中国のトキを夫婦養子に迎え、日本国籍の子どもをつくろうということになった。何かお役所的発想のようにも感じるが、その結果めでたく赤ちゃん誕生となってマスコミを賑わせている。■先日の新聞に「日中トキの交配図」なるものが載っていた。私には、中国のトキが日本で子どもを生んだという現象でしかないように思えるのだが、この交配図なるものを見るとどうやらまだこだわりがあるらしい。雄のヨウヨウのお母さんはあのフォンフォンさんなのである。つまり、キン氏の後妻に来たフォンフォンさんがお暇を頂いて国元に帰ったあと、他の雄とのペアで出来た子どもが今回のヨウヨウ君である。したがって、名誉あるニッポニア・ニッポンの最後の1羽キン氏とは全くの他人じゃないよと言いたいらしい。人間なら入籍したのしないので多少の意味があるかもしれないが、鳥にまであてはめようという努力には涙ぐましいものを感じる。この交配図、さしあたり人間の家系図といったところだから、江沢民さんから天皇に贈られた”トキ家”政略結婚図のようにも見えて面白い。 ■トキは明治の始め頃までは、日本各地に普通に見られた鳥であったという。トキ色は漢字で鴇色と書くそうだが、当時は誰でも知っている色だからこそ使われて来たのである。しかし、今の日本人の中に鴇色と聞いてトキの羽の色をイメージできる人が何人いるだろうか。トキが消えることによって言葉や色彩の文化も消えるのである。だからこそ日本でトキを育てていくことには大きな意味があると思うが、日本のトキが絶滅したことを認める勇気も必要であろう。ニッポニア・ニッポンという学名を持った種を日本から一つ消し去った私たちが、考えなければならないことは沢山あるはずである。

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