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写真と文 石川文平

 

No.49「プリテック・ステージ」1999年3月号掲載

 

花より団子

■花の季節がやってきた。日本の国花はサクラ、国鳥はキジ、そして国蝶はオオムラサキということになっている。何故か国魚や国獣というのは聞いたことがない。桜の木は中国や、チベット辺りにもみられるようだが、日本に最も多くの種類があるそうだ。日本人は古くは花といえば桜の花のことを指したそうである。そんなわけで、春爛漫という言葉はまさに満開の桜にふさわしい。梶井基次郎でなくとも満開の桜には何か不思議なエネルギーがあるに違いないと感じるが、そのエネルギーに引き寄せられて、人は桜の木の下に集まるのだろうか。■何しろ日本人はお花見大好き人間が多い。かく言う私もお花見人間。いよいよ花見の季節がやって来ると思うとうきうきする。しかし、残念ながらこの季節は花粉症で表にいるのが大変つらい。ティッシュで鼻水拭きながらクシャンクシャンやっていると、鼻まで団子になってしまう。マスクのすき間から酒を呑む姿もちょっといただけないので、最近は自粛している。満開の期間は僅か一週間程、桜の花は短期公演だけに花粉症がうらめしい。■団子といえば、母がおやつに作ってくれた”チクラッポウ”というのを思い出す。母の故郷の茨城県の方言で、嘘のことをチクと言う。「嘘だ」と言うのを「チクだ」と使う訳である。さしずめチクラッポウというのは嘘八百と言うところだろうか。私は子供の頃このチクラッポウというおやつをよく食べた。何しろチクラッポウと言うくらいだから、いいかげんな代物だったに違いない。今考えれば戦後の食料難のころ食べたスイトンに似ているようである。スイトンのうどん粉に甘い味をつけて茹でたものを、箸に団子状に刺してもらって食べたのである。このチクラッポウ、母が適当に作ったインチキ団子という意味であろうが、世界のどこにもない私だけのおやつであったようだ。それを片手に近所の公園で満開の桜を見たのを思い出す。 ■日本人と桜の花との関係はずいぶん深い。桜貝、桜鯛、桜肉、桜餅、桜味噌、いやいや食べ物ばかりではない。桜時、桜雨、桜人等々辞書を引くといくらでも出てくる。桜人とは花見をする人をさす言葉だそうだが、花見にでかけても風流を解さない人を、花より団子といって無粋な人と言ったわけである。桜の花の時期を桜時、その頃降る雨を桜雨と使ったようだが、今では死語になっている。こんなきれいな言葉がどんどん消滅していくのは寂しい。増えていくのは、コンピュータ用語やカタカナ語ばかりである。風流という言葉さえ既に死語と言っていいのかもしれない。言葉の美しさを楽しむ文化はいずれ再び訪れるのだろうか。変化の激しい時代には無理なようである。今はやはり、花より団子がいいらしい。

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