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写真と文 石川文平

 

No.46「プリテック・ステージ」1998年12月号掲載

 

星の王子さま

■雨のように降りそそぐ流星を見てみたいと、眠い目をこすりながらまだ暗い空を仰いだ。同じ様な気持ちで、日本中の人が獅子座流星雨を見ようと空を見上げたようである。残念ながら降るような流星は見られなかったが、久しぶりに空を見上げた人たちは、広大な宇宙の神秘をあらためて感じたのではないだろうか。時々長い尾を引いて流れる流星に、願い事よりも思わず歓声をあげてしまう。日本中にロマンチックな夢を与えてもらった数時間であった。■星にまつわる神話や童話は沢山あるが、何といっても人気ナンバーワンは「星の王子さま」だろう。インターネットで”星の王子”の単語を検索すると日本のサイトだけでも1500件以上もヒットする。作者のサン=テグジュペリはフランスの操縦士。彼は1944年第二次大戦のさなか、44歳で飛行機とともに地球上から姿を消す。事故なのか、蒸発なのか、自殺なのか不明とされていた。ところが、先日地中海の漁師の網に彼のイニシャル入のブレスレッドが掛ったと報道された。飛行機の部品なども確認されたようで、地中海に墜落したのは間違いないと、実に54年ぶりに本格的捜索が開始されるようだ。■この事から、サン=テグジュペリに興味を持って彼の作品を少し読んでみた。彼は高度な技術を要する叩き上げの郵便飛行士であった。 パイロットでありながら、私小説的な幾つかの作品を発表している。彼は童話作家ではないのだということも初めて知った。「星の王子さま」は彼の最後の作品だが、それまで書かれたものが全てこの短い童話に凝縮されているように感じた。彼の作品は小説ともエッセーとも、またノンフィクションともつかないジャンルの作品が多い。しかし、その内容は読者に強烈なインパクトを与える。貴重な体験が生みだす文章のパワーであろうか。そこに共通しているのは、地球、星、砂漠、愛、平和。「星の王子さま」にでてくる幾つかの名文句からも判るように、彼は地球という星の人間がどのように物を見、考えるべきかを、問いかけ、伝えようとしている。■多くの宇宙飛行士が、宇宙で不思議な啓示や感覚を体験したと聞いたことがあるが、彼は、星を頼りに夜間飛行をしながら、同じ様な体験をしたのかもしれない。悪天候の中の飛行や、砂漠への不時着など、死と隣り合せた体験からの達観かもしれない。「一ばんたいせつなものは目に見えないんだよ」というフレーズは「星の王子さま」ファンの殆どが好きな言葉だろう。私もその一人だが、「おとなは、だれも、はじめは子どもだった」という言葉も好きである。本の読み方はさまざまであり、解釈も自由だが、私はこの物語の最後の4行に特に仏教的な宇宙観を感じる。色即是空の境地に至った彼が「心と宇宙は一体」であり、だから「幸福も不幸もあなたがつくりだしているだよ」と私たちに教えてくれているように思える。■長い尾を引く獅子座の流星を見ながら宇宙を想像していると、サン=テグジュペリでなくとも色々な空想が湧いてくる。この流星にのって星の王子さまが、また砂漠にやってきたのだとすれば、今になってブレスレッドが発見されたのもうなずける。彼が王子さまとの再会を希望しているのは物語の最後のページを読めばすぐにわかる。なぜなら、彼は羊の口輪の皮ひもの絵を描き忘れているのだから。

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