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写真と文 石川文平

 

No.41「プリテック・ステージ」1998年7月号掲載

 

カリブの超常現象

■カリブと言えばあのワールドカップで日本と接戦をしたジャマイカを想像する人が多いと思うが、ガダループという島を知っている人は少ないのではないだろうか。小さな地図には殆ど表示されていない。日本から飛行機を3回乗り継ぎ3日かけてやっと到着出来るフランス領の小さな島である。ここで皆既日食が見られるといわれ、好奇心にも誘われてちょっと無理をしてみた。■一度皆既日食を経験すると病みつきになるという話しだが、体験してそれを実感した。この感覚は普通の日食や金環食では味わえないという理由も判った。皆既日食つまり太陽が完全に月によって隠される日食は、白昼突然夜になるのである。そんなことは教科書で習っているし想像できるとおっしゃるだろうが、理屈と体験の違いとはまさにこの事である。天上は夜であり地平や海の彼方は夕方のように光が差し込む。突然天空を黒い蓋で覆われたような感覚は、宇宙の理屈を知っている文明人にも常識を超えた不思議な感覚を煽りたてられる。古代人では尚更であろう。神か悪魔の仕業の様に思えるのも無理はない。体験した人はまさに超常現象を見た思いである。■カリブに行く前、私はそこがどの辺りにあるのかも知らない無知な状態であった。 旅行前のたった一つの情報源は友人に教えられた「カリブの光と影」という本である。陽気なカリブの文化とそこに隠れた影の歴史を書いたものであるが、教科書に学んだ一辺倒な知識(もっとも私にはそれすら無かったのだが)では得られない刺激をこの本から受けた。西インド諸島の人々は陽気なカリビアン。サンバやレゲーは太陽サンサンの明るいリズムである。この明るい文化が定着するまでに実は大変な歴史があった。コロンブスがインドと間違えてこの島々を発見して以来、インデアンと呼ばれた島の原住民達は100年も経たないうちに絶滅してしまう。彼等は食べ物もろくに与えられない環境で、奴隷として酷使され消費されたのである。それまでは平和に暮らしていたであろう彼等にとって、侵入者達の行動は晴天の霹靂。まさに超常現象であったに違いない。■原住民の労働が底をつくと、次の労働力としてアフリカから大量の黒人奴隷が連れてこられた。この人達が現在の西インド諸島の人々の先祖になる。彼等が普通の人間として市民権を得るには、数百年の経過と想像を絶する苦労の歴史があったようだ。驚くことにガダループ島の山中に、現島民の黒人達に蔑視されてひっそりと暮らす白人の村があるという。奴隷制度に君臨したフランス貴族の末裔達の村。この村はブランマティニオンと呼ばれる。島民の間ではこの村のことは誰もが知っているが、誰もが口にしない。観光客に対しては言わずもがなであった。現地のガイドなど色々な人に頼んでみたが案内を買って出たガイドはいなかった。歴史の皮肉とも言える白人差別。時代の変化に取り残された超常現象と言えないだろうか。■超常現象という言葉を、あえて字面通りの常識を超えた現象という広い意味で使ってみたが、その使い方をすれば歴史は超常現象の積み重ねとも言える。21世紀に向けた激変の社会に、我々も500年前のカリブの様な超常現象を見るのかもしれない。皆既日食ならともかく、出来ることならこちらの方は体験せずに行きたいものである。

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