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写真と文 石川文平

 

No.37「プリテック・ステージ」1998年3月号掲載

 

春一番

■立春を過ぎて初めて吹く南風が春一番、なかなかいい響の言葉で私は好きだ。もーすぐはーるですね〜という歌も大ヒットしたが、あれは確かキャンディーズ。明るい日差しと柔らかな風が、待ち遠しい春のイメージである。春一番という言葉は九州や瀬戸内海の漁師達の間で、古くから使われていた言葉だそうだ。しけの多い冬が終って、穏やかな春を告げるうれしい風なのである。■本州で春一番が吹き始める頃、北のオホーツク海で流氷を見る機会を得た。2月のオホーツクは、まだ厳寒の地であった。シバレると言う言葉は北海道の方言だが、これも今では全国的に知られる言葉である。このシバレる感覚を、立春を過ぎた網走で体感した。早朝タクシーを頼んだらドアが凍り付いて開かず、運転手が両手でミシミシッと客席のドアを開けてくれた。「今朝はシバレるから」と運転手が言った。シバレるとはシビレるが語源かと思っていたが、縛られるが語源かもしれないと思った。全てが縛りつけられてしまう寒さだからシバラレル、こんな事を流氷を見に行く道すがらタクシーの中で考えていた。 ■日本の春は物事の始まりである。正月も新春、役所は四月に新年度、そして学校は入学式。春に始まり冬に締めくくって、また春が巡ってくる。青春も大人へのスタートの春である。季節は巡ってくるが青春は何度も巡っては来てくれない。この大切な青春を迎える前の中学生に最近問題が起きている。神戸の事件に端を発して先生を刺したり警察官を刺したり、プッツンと切れてしまう中学生が増えた。春に舞うのはチョウチョだけれど、バタフライナイフが中学生の間で舞い飛んでいるようだ。だからと言ってナイフの販売を禁止すれば解決する問題でもないのだが、もしかすると校内で持ち物検査をし始めた教師達は、ナイフのメーカーと買った生徒の問題と考えているのだろうか。長野オリンピックで金メダルをとったモーグル選手が、国旗掲揚の時に帽子をかぶったままで世界の顰蹙を買ったのも、全て個人の非常識と片付けてよいのだろうか。インターネットで、猥褻画像の販売行為を法律で禁止しようとしている日本の行政。場当たり的な解決策はバタフライナイフと似てはいまいか。地球の温暖化と同じように、環境の変化が底に沈んだ色々な問題を浮かび上がらせている。■シバレる流氷の海よおまえだけは変わらない・・・と、港の桟橋で皮ジャンを肩に、決まりのポーズでカモメに語りかけようと思ったが、現実は流氷の海も温暖化とともに年々変化しているようである。氷に閉ざされた海を航行するために必要だった砕氷船が、今では流氷を追って見学するための観光船に変わった。シバレる寒さも観光に来られる程度に緩んで来ているようだ。流氷は三月いっぱいまで岸に近づいたり離れたりを繰り返すそうである。北のオホーツクに春一番が吹くのはもう少し先のようである。ところで、冷えきった日本の景気にはいつ頃春一番が吹くのであろうか。21世紀への春一番はもう吹き始めているように感じるのだが。

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