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写真と文 石川文平

 

No.3「プリテック・ステージ」1995年5月号掲載

 

情報

状況や実態を伝える事が情報である。しかし、知りたいと思わない状況を伝えられても、情報とは思わない。活用できて情報になるのであり、活用されないうちは単なる事実の積み重ねに過ぎない。

コンピュ―タの中に収められた大 量のデ―タも、活用されなければ単なる数字の山である。

情報という単語は 、文豪森鴎外の造語だそうだ。「情」と「報」の字を組み合わせたのには意味 が有る筈だが、本人に尋ねる訳にもいかない。ストレ―トに意味付けすれば、 情けに報いる、あるいは心の動きを知らせるということになろうか。鴎外は、 今のような情報化社会を予想したのであろうか。

明治の時代に外国から入って くる物は全て珍しく心を動かされる物であり、もっと知りたいと思う事が沢山 あったであろう。この様な時代を背景に、鴎外は、心が欲している事を知らせ たり、知った事で満足感や感動を得られる物を、情報という言葉で表そうとし たのではないだろうか。昨今では、スパイ映画やコンピュ―タ関連の専売品の様な言葉になってしまったが、「情報屋のタレ込み・・・」や「情報化社会の ・・・」ばかりが情報ではないようだ。

 

どんな生物も、危険を察知し食べ物 を得る為に情報を必要とする。情報は生物にとって、生きる為の必要条件と言 える。人間も同じ事であるが、人間はさらに、文字という手段を生み出し、情報を記録可能なものとした。

記録は、社会にル―ルを機能させた。これは、文字という情報手段によりもたらされた、古代の「情報化社会」現象と言える。「情報化社会」は、コンピュ―タや 光ファイバ―ばかりが創り出す現象ではないようだ。歴史的にみてみると、文字の次に第二の情報化社会をもたらしたものが有りそうである。鉄道、自動車 、通信、放送等々。私は中でも「印刷」を筆頭に上げたい。その理由は、印刷 業界に身を置いているからという、ひいき目な見方ではなく、大量情報手段として、文明 や文化の発展に寄与した功績は大きいと考えるからだ。放送の持つマスコミュ ニケ―ションの情報発信力は印刷よりもはるかに大きいが、すでに出来上がった 文明の上に開発された放送技術と、現代文明を築く礎をもたらした印刷技術とは、文明への功績の差は比較にならないと言える。

ドイツのグ―テンベルク は、印刷技術を発明し、業とした。始めての活版印刷物は聖書で、1頁A3程 の紙に1センチ角もある活字で印刷されている。活字の聖書も、きっと高価な ものであったに違いないが、それまでの手書きの複写と比べれば、遥かに大量に広く普及 出来た。グ―テンベルクの晩年は、あまり知られていない。これだけの偉大な 発明をしても、当時は特許権があった訳でも無く、技術は極秘にしていたようだが、数年の間にヨ―ロッパ各地に広まって行ったそうである。

さらに技術が 向上し、大量に安く情報が手に入るようになると、聖書に限らずあらゆる物の 印刷需要が出るのは当然で、その結果、産業、技術、教育等、画期的に情報が行き来して、急テンポで文明が開花して行った。これが、200年後英国で始ま った産業革命へと繋がるのである。

ドイツ人はグ―テンベルクを誇りとし、 印刷技術をステ―タスの高い文化的仕事と考えている。日本人で最も有名な印 刷技術者は誰だろうか。業界人の間でもなかなか答えられないが、先日そんな 話をしていたら、それは、”寅さん”の社長だと答えた人 がいた。なるほど、”寅さん”に出てくるひょうきんな社長が、日本人の平均 的印刷業イメ―ジなのかも知れない。

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