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写真と文 石川文平

 

No.28「プリテック・ステージ」1997年6月号掲載

 

ディープブルー

■コンピュータと人間のチェスの試合でコンピュータが勝った。このコンピュータの名前はディープブルー。外観は名前の通り青い色をしているようである。このコンピュータの兄弟でディープシンクというコンピュータが1年前に同じ世界チャンピオンのカスパロフ氏に負けている。今回はその仇打ち戦だったわけである。このディープブルーはプログラマーが数人掛かりで最新鋭機のIBMスーパーコンピュータに、対カスパロフ用プログラムをプログラミングした特別仕立てのスパコンである。私は人間がコンピュータに負けたということよりも、そのコンピュータが現在のトップレベルのスーパーコンピュータであったことに驚きを感じた。■なにしろスーパーコンピュータと言えば膨大な数値を一瞬で計算でき、人間の計算能力を遥かに超えた化け物という印象がある。そんな化け物みたいな能力があっても、これまでコンピュータは人間にチェスで勝てなかったのである。コンピュータは記憶力と計算力は突出しているが判断力や想像力は持たない。プログラミングによって、作業処理した結果から次の処理を行う連続作業はいくらでも出来る。一見、作業結果を判断して次の作業に移っているように見えるが、条件に当てはまる作業処理をプログラム通りに行っているに過ぎない。考えてみれば人間の仕事でもこれに似た作業をしている場合が多い。だから状況がいつもと変わったり、経験の無い条件に遭遇するとマニュアルを読んだり上司に判断を仰いだりと指示通りにしか動けない者が多い。もっとも、再三ごまかし報告をしていた「動燃」の管理者のような判断力も困りものだが。 ■最近、勉強は出来るが判断力が弱い人が増えたと言われている。頭が良いということは勉強が出来るということとイコールに考えがちだが、果たしてそうなのだろうか。頭が良いとは最善の判断がどんな時にも出来るということではないだろうか。記憶の良さや知識の多さだけではコンピュータと同じである。判断力や想像力が人間の特質と言えるだろう。目的意識やこう有りたいという気持ちが、その為にはどうするべきかを考えさせてくれる。現代の社会背景のように満たされた環境の中から夢は生まれにくいと言われるが、夢や可能性を持つことは大事である。夢を持つことで努力や想像力が活性化される。努力の結果や納得のいくポリシーが無ければ誇りも生まれない。その点コンピュータには夢も目的意識もない。勉強は出来るが判断力が弱いと言われる人達は、夢を持とうという気持ちや目的意識が弱いように思える。「何とかなるさ」の感覚には夢や誇りを持とうという情操は沸き上がらないようだ。■カスパロフ氏はコンピュータに負けたとき、精神的プレッシャーに潰されたと言った。まさに、コンピュータを相手にした人間ならではの言葉かもしれない。そして、数日後再試合を希望し今度は絶対に負けないと宣言した。世界チャンピオンとしての誇りであろう。一方ディープブルーは組み込まれたプログラムに従って、何億通りもの駒の動きを計算し淡々とその結果を表示していた。疲れる事もなくチャンピオンになりたいという夢もなく。勝った嬉しさを表現するわけでもなく、ただ無表情に次の指示を待っていただけである。

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