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写真と文 石川文平

 

No.23「プリテック・ステージ」1997年1月号掲載

 

鏡 餅

■正月と言えば初詣、松飾り、お雑煮、鏡餅、数えてみると沢山の習慣があるが、主役は何と言っても”餅”ではないだろうか。硬くて持ち運びに便利で、煮たり焼いたりすると柔らかくなって、ふくれたり伸びたりするなかなか面白い奴である。三が日はお父さんが火鉢で餅を焼き、暮れのうちに準備したおせち料理で雑煮を食べる。お母さんも晴れ着を着て、あまり台所で忙しく働かないように考えられたこの習慣に、餅は欠かせない主食になるのである。従ってその食品パターンに飽きたころ、七草粥が登場するという仕組みである。お母さんも早朝から起きて七草をとんとん刻み、本格的に台所仕事初めを開始することになる。■正月行事のしめくくりは11日の鏡開き。鏡餅を割って、あずき汁や雑煮にして食べる。この習慣は今でも残っているが、江戸時代は武士も町民も鏡開きで本格的仕事初めとしていたそうである。この日、武士は鎧を納めた具足櫃を開き、町民は蔵開きや帳簿を整える、そして農民は田や畑の鍬初めをしたようである。近年は公務員の仕事初めの関係でその前後に当てている会社が多いが、昔はもっとのんびりしていたようだ。その鏡餅の鏡は文字どおり古来の鏡をかたどったものであるが、その昔は今のような腰高の形ではなく鏡の様に薄い円盤状だったそうである。最近の家庭用鏡餅にはプラスチック成形に切り餅が封入されているものがでている。これがなかなかの人気のようだ。関西以西は丸餅であるから関東用と関西用では中味を変えてあるようだが、底を開けば簡単に切り餅が取り出せる。割らずにひらける、これが本当の鏡開きかもしれない。 ■餅の語源は望月(満月)の”もち”から来ているという説がある。満月の日には兎も餅つきをしているくらいだから、餅は月と関係があるのだと先づは単純に考え、そこで、鏡も月に関係があるのではないかと想像してみた。鏡の大もとは水であるが、夜、水に写った月の形は最も効率的に光を反射する。光の量が最も多い満月が水に映る様は、古代人にとっては風流だなどと言っているよりも神秘であった筈である。円い鏡はその神秘さのイメージだと考えたい。月の動きが生活を司っていた時代、月が12回欠けて1回目に戻る朝、つまり新年のお供え物は、餅で造った満月を映し出す鏡であっても何の違和感もない。■こんな推理をしていると言葉遊びよりも考古学的想像の方が楽しい気がするのだが、もう一つ推理したことを蛇足で書こう。鏡の大もとは水、つまり水鏡なのであるが、この水鏡は壷に水を張り水面を覗き込んで化粧などに使ったそうだ。つまり、鏡を見るために屈むのである。”かがむ”姿勢が鏡の語源と言う説、どなたか支持してくれる方はいるだろうか。え、いないって? ならば、古くは鏡は”かかみ”と書かかれている。自分の女房、つまり、かかあが見るから”かかみ”となったという推理はどうでしょう。他愛もない推理ゲーム、コンピュータに疲れたとき気分転換にいかがですか。

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