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写真と文 石川文平

 

No.14「プリテック・ステージ」1996年4月号掲載

 

にじ色の魚

■最近世界的に話題になっている絵本をご存じだろうか。とてもきれいで、大人も子供も感動出来る絵本である。題名は「にじ色の魚」、世界で何と450万部も売れているそうだが、日本語版は初版3万部しか印刷されず、現在増刷に追われているそうだ。しかし、日本では、絵本が初版1万部を越えること自体が例外なのだそうである。■印刷にかかわる者として、技術志向的に言えば、先ず、虹色の魚を表現する鱗の箔押しに特徴がある。箔は銀色であるがその中に光の加減で微妙に変化する模様が入っている。これまで見かけたことのない箔押しの種類である。本の印刷表現もさることながら、その絵本の内容が素晴しい。単純なストーリーなだけに、判りやすく感動を生むのかもしれない。ストーリーの概略は、”本当に価値のあることとは何か”を、虹色の鱗を持った魚になぞって物語にしている。Marcus Pfisterという人の著作で、出版元はスイスであるが、印刷はベルギーでされているそうだ。たかが絵本と言えぬワールドワイドな内容である。■最近、日本でも「知的貧富の差」と言う言葉が話題になり始めた。特に若者達の間でその差が広がりつつあるようだ。ブランド物や流行にのみ価値を感じ、面白可笑しいことだけを興味の対象にしている若者と、知識や経験を磨くことに価値を感じ、ボランティア活動等に時間をさく若者との間に、知性の差が広がるのは当然であろう。マルチメディア社会に向けて大きく変わろうとしている価値観は、第三の波の向こう側で生きるための、必要条件なのかもしれない。物質的豊かさを享受してきた日本人は、それと引き替えに精神的豊かさや文化を放出してきたとも言える。経済的貧富の差が先進国で最も少ないと言われてきた日本人であるが、知的貧富の差は益々大きく広がって行くのかもしれない。 ■−ある海に、きれいな虹色の鱗を持った魚がいた。その魚は、他の魚達からいつも羨望の目で見られている。あるとき、小さな魚に鱗を一つ分けてほしいと言われるが、それを冷たく断わってしまう。それいらい、他の誰からも相手にされなくなってしまう。何故そうなったのか気付けずに、海の識者に相談すると、その奇麗な鱗を皆に分けてあげなさいと教えられる。しかし、自分の価値はこの鱗が有るからだと考え、そうしようとはしない。あるとき、一枚だけならと思って小さな魚に自分の鱗を分けてあげると、その魚はとても嬉しそうに喜んだ。それを見て、虹色の魚は、これまで感じたことのない満足感を味わう。その素晴しさを知ってから、皆に自分の鱗を分けてあげるが、とうとう美しい鱗はたった1枚になってしまう。虹色の魚は、鱗が無くなって、かけがえのないものを得られたことに気付くのである。

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