瞑想ものがたり瞑想ものがたり

サイトマップメールhome
 
 

修行の巻九

 

長かった修行もいよいよ終わりに近付いた。足の痛みにも慣れ、集中した瞑想が行なえるようになった。ヴィパッサナ瞑想に入るあたりから、お腹の鳴る音が増え出したように感じる。内蔵の働きが活発になっているのだろうか。クーやキュルルルなど賑やかな音が密やかにあちこちで鳴る。静まり返ったホールにお腹の音だけが微かに響く。心は落ち着き、頭は覚醒しているからこれらの音ははっきりと聞き取れ、しかもどの辺りから聞こえてきたかも見当がつく。とは言え決してその音にとらわれて意識が動いてしまう訳ではない。10日近くもひたすら瞑想を続けていると、さすがにそんな事には動じない。平静で冷静である。我ながら大したものだと感心する。始めの頃は自分の呼吸にすら10秒も集中できなかったのに、今では1時間ひたすら自分自身に意識を集中し続けることができる。これも修行の賜物だ、俺もなかなか捨てたものじゃ無い。結構やるじゃないかなどと、自分を誉められるレベルにまでもなったように思えた。その日も自信を持って瞑想ホールのいつもの位置で平静に自分に集中していた。静まり返ったホールの私の斜め後ろ辺りから、突然「プーッ」という音が明瞭に響いた。覚せいしていた私の意識は、瞬間に誰の位置からの音か判断ができた。あのポマさんに違いなかった。この音は誰が聞いてもお腹の鳴った音ではなかった。お腹の鳴る音はグーやキューなど摩擦音だからカ行の音である。オナラは破裂音だからハ行の音なのである。その時ピンと張り詰めていた静寂の空気が一瞬弛んだ。あの明確な音に反応したのは私ばかりでなかった事は言うまでもない。ポマさんの位置は女性に一番近い側の最後列である。女性達の方向からざわめきが伝わって来た様に感じた。近くに位置する女性にとっては濡れ衣を着せられる可能性すらある。瞑想どころではないに違いない。私はポマさんを振り返って見てみたい衝動にかられた。ポマさんが瞑想をしながら平然とオナラをしている姿を想像して可笑しさをこらえるのに必死であった。眼を開けて後ろを振り返りたい衝動をやっと押さえた頃、ホールにも再び静寂がもどった。自分もなかなかのものだなどと過信していたが、私の平静心などまだまだ未熟であることに気付かされた。

 |Index|

 

*このHome pageに掲載している写真及び文章の著作件は
石川文平に帰属します。無断転載を禁じます。