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入門の巻一

 

ここでは女性と男性は生活圏が明確に区分されている。食堂、シャワー室、トイレ、寝室、庭までもサイトが別れており互いに立ち入り禁止である。男性も女性も初日の説明会までの数時間が情報交換できる僅かな機会であり、以降最終日前日まで一切の会話の場はないのである。
私の割り当てられた部屋は段ベッドの4人部屋で、年令層の高い人たちが集められたようである。名前も職業も一切知らない。私の下のベッドには多分参加者の最高齢と思われる恰幅のいいおやじさんが場所を確保していた。60歳は過ぎていると思う。この人何をやるにも行動がおそいのだが、朝は早い。初日は3時頃からごそごそと起き出して散歩だろうか部屋を出ていった。しばらくして帰ってくると、何やら遥か昔に嗅いだ憶えのある整髪料のにおいがぷんぷんする。それもポマードとバイタリスとMG5(20年以上前に青年じゃなかった人は知らない名前だろうが)の混ざったようなあまり高級とは言えない匂いである。しかも匂いは下から上にあがってくる。あまりの匂いの強さに「カンベンしてくれー」と声を出しそうになった。私はこのおやじを”ポマさん”と呼ぶことにした。
しばらくしてカーンカーンカーンと高音の鐘の音が鳴り響いた。起床を知らせる鐘である。皆無言で洗面所に向かう。顔を会わせても「オッハー」と言ってはいけないのである。礼儀正しく(?)育った私には何とも異様に感じる。集団で瞑想に励むのだがこの修行はあくまでも自分一人で行っていると仮定して行動するという事なのである。相手を見てもそこには誰も居ないのである。従って食事もその状況がつづく。食事はセルフサービスで、お盆に必要な食器をのせ、そこに欲しい分だけ飯やおかずを取り分けてただ独り黙々と食べる。どれがうまそうだとか、味付けが濃いの薄いのと会話しながら楽しく食べたいところだが、ここでは「いただきます」の声すら発しない。食事の前に手を合わせる者や、頭を下げてから箸をつける者、なにもせずに食べ始めるもの、食べ方は様々だ。手を合わせてから食べ始めるイガグリ頭の二人が目についた。この二人はどう見てもお坊さんらしい。私は背の高い方を”オボウさん”低い方を”コボウさん”と呼ぶことにした。

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